インサイトドリブンとは、消費者の潜在意識(インサイト)からニーズへの気づきを得るために、エスノグラフィー調査やデプスインタビューなど複数の調査方法を用いたプログラムです。
市場調査をメインに企業のマーケティング支援を行っている株式会社ネオマーケティングが提供しているサービスのひとつであり、ビジネスにおける最新イノベーションのひとつと注目されています。
このプログラムの特徴は、調査結果からアウトプット・ブラッシュアップ・評価までを一貫して行うところにあります。
ここでのアウトプットとは、調査結果を基に商品開発やコミュニケーションプランやデザインの案出し・制作を行うことを指します。アウトプットしたものは社内やモニターに提示し、そのフィードバックを基にブラッシュアップします。
評価は、ブラッシュアップを繰り返して最終形態となった試作品を模擬販売することを指します。販売後に、定量データ(例:試作品ごとの売り上げの差など)と、定性データ(例:モニターの購買理由など)を得ることができます。また、データの結果から、必要に応じてアウトプットとブラッシュアップを繰り返します。
今回は、インサイトドリブンの特性を、理解・活用するために、「インサイトドリブンの概要」、「インサイトドリブンの流れ」、「インサイトドリブンを行うメリット・デメリット」について、解説します。
目次
インサイトドリブンの概要
インサイトドリブンとは、消費者の潜在意識(インサイト)を調査し、得られた気づきを商品開発から模擬販売までのブラッシュアップに役立てるという、ビジネスのイノベーションを図るプログラムを指します。
企業が、自社の商品やサービスを改善したい・新開発したいが、現状の課題や問題が具体的に見えない時などに活用されます。
消費者の言語化されない潜在意識(インサイト)をどのように調査するのか、商品開発や模擬販売はどのように行うか、次項より解説していきます。
インサイトドリブンのメリット・デメリット
インサイトドリブンには他の調査手法では得られないメリットがあります。一方で、調査を実施する際に考慮しなければならないデメリットも存在します。
ここではインサイトドリブンのメリットとデメリットを解説していきます。
インサイトドリブンのメリット
インサイトドリブンを行うメリットは以下の2つです。
① ユーザーの日常に潜む潜在的なニーズを発見できる
② 調査だけでなく、アウトプット・評価・ブラッシュアップまでを一貫して行える
インサイトドリブンのデメリット
インサイトドリブンにおけるデメリットは、以下の2つです。
① エスノグラフィー調査やDI、会場調査など、専門知識を要する調査手法を多用する
② 全行程を終えるまで時間とコストがかかる
インサイトドリブンの流れ
テーマや対象によって様々ですが、基本的なインサイトドリブンの流れは以下の通りです。
リサーチ
市場規模・環境のリサーチ
まずは、企業の希望や現状の課題・売上データ等を基に、市場のリサーチをします。
販売エリア・ターゲット・価格帯・競合などの業界環境だけでなく、関連する国の統計資料(例:特定の食品の国別消費量 等)なども調査し、商品テーマのヒントを集めるデスクリサーチをします。
ここでは、決定したテーマを仮に「市場に新たな旋風を巻き起こすカップ麺」とします。
モニターのリサーチ(エスノグラフィー調査)
カップ麺の消費者のインサイトから隠れたニーズを解明するため、エスノグラフィー調査と呼ばれる訪問観察を行います。
(エスノグラフィー調査について、詳しくは「エスノグラフィー調査とは? 調査の流れやメリット・デメリットを解説」の記事をご覧ください)
なお、インサイドドリブンにおけるエスノグラフィー調査にて対象となるのは、「エクストリームユーザー」です。
※エクストリームユーザーとは、商品やサービスに対して良い意味でも悪い意味でも極端(=エクストリーム)な思考を持つユーザーを指す。具体的には、一般ユーザーと比べて商品の消費量が膨大であったり、開発者も思いつかないような使い方をしているヘビーユーザー。また、個人的な理由により、商品を絶対に使用しないアンチユーザーがそれに当たる。
調査会社と企業間でエクストリームユーザーの定義を協議し、彼らを選出するためのWebアンケートを作成します。こちらを調査会社の保有するモニターに実施し、回答結果から3名ほどのエクストリームユーザー候補を選出します。
カップ麺の例であれば、以下のようなポジティブなエクストリームユーザーとし、エスノグラフィー調査を行います。
図:エクストリームユーザーの例
上記のエクストリームユーザーの自宅へ訪問し、自宅の様子やライフスタイルの観察、インタビューを用いて、より詳細なプロファイリングを行います。
カップ麺の例では、食事スタイルを重点的に調査するでしょう。
【例】
・カップ麺のスープは飲んではいけないと幼少期に親から言われてきた。
・お湯少な目めで8分ほど待つ。味がしみ込んだやわらかい麺が好き。(食感へのこだわり)
・1口が大きく、咀嚼は5回未満。
また、エスノグラフィー調査は、行動や環境に潜む潜在ニーズを発見することが目的なので、カップ麺や食事に直接関係ないことでも、気づいたことや感じたことを記録します。
【例】
・目を見て話さない。シャイ。
・家電はすべて古い。
・近隣に家族・友人がいない。
インサイトドリブンのエスノグラフィー調査では、調査員だけではなく、企業の社員にも同行してもらうケースがほとんどです。
消費者の生活や消費行動の現場を五感で感じ取ることができるので、企業の社員にとって非常に有意義な経験のはずです。
また、調査会社には詳細なセグメントをデータベース化し、多数のモニターを保有していますので、エクストリームユーザーの抽出にも非常に便利です。
ブラッシュアップ
アイデア出し(ワークショップ)
エスノグラフィー調査結果を調査会社と企業で共有し、「エクストリームユーザー“例1”においてはこんなインサイトがあるのでは」「そのインサイトから、こんな方向性が有効ではないか」など、アイデア出しのワークショップを行います。
アイデアは、エクストリームユーザー1名に対して複数(4つ程度)出し、商品名やパッケージ、特徴、訴求ポイント、利用シーンなどを設定します。
アイデアのブラッシュアップ(デプスインタビュー)
例えば、エクストリームユーザー“例1”に対して下図のようなアイデアが出たとします。
図:エクストリームユーザー “例1”
図:エクストリームユーザー“例1”に対するアイデア例
図:エクストリームユーザー“例1”に対するアイデア例
これらを、対象となるエクストリームユーザーに(この場合 例1)提示し、インサイトと食い違いがないかをデプスインタビュー(以下、DI)で確認します。
(デプスインタビューについて、詳しくはこちらをご覧ください。「デプスインタビューとは? 調査の流れやメリット・デメリットを解説 」)
このDIでは、①商品名 ②商品特徴 ③ビジュアル それぞれに対する意見をインタビューします。
例えば、「飲んだらアカン!シリーズ」の商品名について、「汁なし麺ということ?あまりイメージがわかない」という意見が出れば、商品名改善のヒントになります。
また、「別売りかやくシリーズ」の商品名に対しては好反応でも、内容やビジュアルについて、以下のような指摘があるかもしれません。
・「〇〇(商品名)のエビ」とかじゃないと。ただのエビだったら冷凍をスーパーで買う。
・グラム数ではピンとこない。「〇食分」とかならわかりやすい。
上記を参考に、かやく毎の名前や、量の表示方法などについてブラッシュアップができます。
コンセプト創造、ビジュアル化(ワークショップ)
ブラッシュアップが完了したら、4つのアイデアの中から2つ程に絞り込み、コンセプトの最終決定をし、下図のようなポスターなどでビジュアル化します。これにより、関係者全員が商品に対して共通認識を持つことができます。
左図:ネオマーケティングが実際に作成した「飲んだらアカン!」シリーズのポスター
右図:ポスターを実際に街中で見た時のイメージ(合成)
商品のコンセプトを明確に伝え、ターゲットの購買意欲をそそるようなクリエイティブ技術が必要です。
調査会社には、デザイナーなどの外部機関とのつながりが広かったり、自社にデザイナーが在籍していたりする場合もあります。一度問い合わせをしてみるといいでしょう。
モック制作
最後のアウトプットとして、モックを制作します。
モックとは、実際と同じ大きさ・見ためで実際の機能も伴っている状態のサンプルのことを指します。つまり、販売できる状態まで作り上げるということです。
カップ麺の場合は、パッケージだけではなく麺と火薬が入っており、ふたを開けてお湯を入れて食べられる状態のものを制作します。
評価・リサーチ
模擬購買・モニター観察(会場調査)
最後に、模擬購買を行って会場調査をします。
模擬購買とは、実際の売り場を再現し、モックと既存商品を共に並べ、モニターにお客様として買い物をしてもらうことを指します。
モニターが店内を回る順番、商品の何を見ているかなどの行動観察や、買った・買わなかった理由などを直接聞くことで、他社の優位点やモックの改善点のヒントを得られます。
なお、模擬購買ではお客様役モニターが100名程度必要とします。調査会社では自社でモニターを保有しており、様々なセグメントをデータベース化しているので、ターゲットユーザーの抽出も簡単です。
また、インサイトドリブンを提供している「ネオマーケティング」では、評価方法としてクラウドファンディングを活用しています。
同社は国内最大クラウドファンディングサイト「CAMPFIRE 」と提携しており、開発中の商品への支援を募ることでその商品の需要を検証できます。
※クラウドファンディングとは、不特定多数の人がWeb上で企業や組織、グループに財源の提供や協力などを行うことを指す。
模擬購買の結果が芳しくなかった場合は?
模擬購買にて、モックの売れ行きやモニターの反応が芳しくなかった場合は、主に「コンセプト創造・ビジュアル化」「モック制作」のフローからやり直しを行います。
2度目の会場調査の前に、Webアンケートを使って受容性を確認する場合もあります。
まとめ:インサイトドリブンならニーズに120%応える商品開発が可能
インサイトドリブンはただのマーケティング調査の一種ではなく、ニーズ発見から商品開発とブラッシュアップまでを一貫して行うことでビジネスのイノベーションを図るプログラムです。
消費者の顕在的なニーズだけでなく、潜在的なニーズを発見することで、彼らの要望を120%かなえる商品を生み出すことが可能です。競合を勝ち抜き市場を独占するために、インサイドドリブンを活用しましょう。
各調査会社には、経験豊富な調査員や、多数のモニター、調査環境がそろっています。
まずは複数社に見積もりを依頼してみることをおすすめします。
執筆協力:株式会社ネオマーケティング
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